金型用鋼は、焼入れと焼戻しで硬さや欠け・割れに耐える性質を調整します。それぞれの役割、熱処理による寸法変化、仕様と検査で確認する項目を解説します。
この記事で分かること
- 01焼入れ・焼戻しの役割それぞれの処理で金型用鋼の性質がどう変わるか
- 02硬さとじん性の考え方摩耗・欠け・割れに応じて確認する性質
- 03熱処理による寸法変化直後の変形と時間がたってからの変化
- 04熱処理の仕様と検査硬さ・寸法・記録で確認する内容
金型の熱処理で行う焼入れ・焼戻し
焼入れは、鋼材を鋼種に応じた温度まで加熱した後、適切な速さで冷却して硬くする処理です。焼入れ直後の鋼は硬い一方でもろく、内部に応力が残っているため、そのまま金型として使うのではなく、通常は焼戻しを行います。

焼戻しは、焼入れした鋼を再び加熱し、硬さとじん性を調整する処理です。焼入れで生じた応力を減らし、使用中の欠けや割れに耐えられる性質に整えます。焼戻しの温度や回数は鋼種と要求する性質によって異なるため、材料メーカーの推奨条件を確認します。
金型用鋼には、必要な硬さに熱処理した状態で供給されるプリハードン鋼もあります。この場合は追加の焼入れ・焼戻しを行わずに加工して使える鋼種があるため、まず材料の供給状態を確認します。
金型の硬さ・じん性・寸法変化の考え方
摩耗への強さと欠け・割れへの強さを分けて考える
じん性とは、欠けや割れに耐える性質です。摩耗を抑えるには耐摩耗性が、欠けや割れを抑えるにはじん性が必要です。硬さを高くすることは耐摩耗性の向上につながる場合がありますが、硬さだけで金型の寿命は決まりません。同じ硬さでも鋼種や熱処理後の組織によってじん性は異なるため、発生している不具合と使用条件から材料・熱処理を検討します。
熱処理による変形を見込んで加工する
焼入れでは、加熱・冷却に伴う温度差や鋼の組織の変化によって、そりや寸法変化が生じることがあります。その程度は鋼種、形状、肉厚、処理条件で変わります。寸法精度が必要な面は、熱処理後に仕上げ加工できるように加工代を検討し、処理後の寸法を測定します。
プレス金型のダイプレートを熱処理する場合を仮定します。組付け面の平面度や穴の位置を製品図面ではなく金型部品の図面で指定し、処理前後に同じ箇所を測定して、指定した寸法許容差を満たすか確認します。
熱処理後に仕上げ加工する面は、変形を修正するための加工代をあらかじめ検討します。硬さの測定位置と方法も決め、寸法の測定結果と分けて記録します。加工代や要求硬さは、鋼種、部品の形状、金型の使用条件に応じて設定します。
精密金型では時間がたってからの寸法変化にも注意する
熱処理直後に寸法が合っていても、その後に寸法が変わる場合があります。原因の一つは、焼入れで変化しきらずに残った組織である「残留オーステナイト」です。これが時間とともに別の組織へ変わると、寸法変化につながります。
必要に応じて、氷点下まで冷却するサブゼロ処理や、追加の焼戻しによる安定化処理を検討します。すべての金型に必要な処理ではなく、鋼種と要求する寸法精度に応じて判断します。
金型の熱処理仕様と検査で確認する内容
熱処理の仕様は、硬さの数値だけでなく、測定する位置と方法、処理後に確認する寸法まで決めます。金型のどの部分で、どのような不具合を防ぎたいのかを図面や仕様書に示すと、必要な条件を検討しやすくなります。
| 確認項目 | 決めておく内容 | 確認する理由 |
|---|---|---|
| 材料と供給状態 | 鋼種、プリハードン材かどうか | 追加の熱処理の要否と適用できる処理を判断する |
| 要求硬さと測定 | 硬さの尺度・範囲、測定位置・方法・数 | 検査条件をそろえて要求を満たすか確認する |
| 寸法と後加工 | 寸法許容差、測定箇所、仕上げ加工する面 | 処理後の変形と加工代の不足を確認する |
| 処理と検査の記録 | 処理履歴、硬さ測定結果、証明書の要否 | 不具合時に材料と処理条件を確認できるようにする |
過去に欠けや割れが出た金型なら、発生位置、使用条件、修理履歴も共有します。熱処理を依頼する場合は、検査項目と記録の提出範囲を依頼先と決めておきます。
まとめ
金型の熱処理では、焼入れと焼戻しによって硬さとじん性を調整します。摩耗・欠け・割れのどれが問題なのかを特定し、硬さと必要な寸法精度を合わせて検討することが大切です。
仕様を決めるときは、まず鋼種と供給状態、使用条件、過去の不具合を確認してください。そのうえで、要求硬さ、熱処理後の仕上げ加工、測定する位置と方法を具体化します。
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よくある質問
焼入れだけでは金型を使えないのですか?
焼入れ直後の鋼は硬い一方でもろく、内部応力も残るため、通常は焼戻しを組み合わせます。ただし、プリハードン鋼など供給時点で性質が調整された材料もあるので、鋼種と供給状態を確認してください。
金型は硬いほど長持ちしますか?
硬さだけでは判断できません。摩耗には耐摩耗性、欠けや割れにはじん性が関係します。金型の形状や負荷も含めて、材料と熱処理を検討します。
熱処理後に寸法を確認するのはなぜですか?
加熱・冷却や鋼の組織変化によって、そりや寸法変化が生じることがあるためです。精密金型では時間がたってからの寸法変化も考慮し、必要な処理と仕上げ加工を検討します。
プリハードン鋼にも焼入れが必要ですか?
追加の焼入れ・焼戻しをせずに加工して使える鋼種があります。一律に追加処理を行うのではなく、供給硬さと材料メーカーが示す加工・熱処理条件を確認してください。
硬さの検査証明書があれば品質を判断できますか?
硬さの測定結果は判断材料になりますが、それだけで必要な寸法精度や使用中の寿命までは確認できません。図面・仕様書で決めた寸法や検査項目と合わせて確認します。