プレス金型の材料は、刃先や摺動部など部品の役割と、摩耗・欠け・変形の生じ方に合わせて選びます。SKD11、ハイス、超硬合金では、硬さ、じん性、耐摩耗性、加工・補修の条件が異なります。この記事では、熱処理、再研磨、交換まで含めた比較方法を解説します。
この記事で分かること
- 01部品の役割刃先・保持部・案内部の材料
- 02材料の違いSKD11・ハイス・超硬合金の特長
- 03熱処理と加工鋼材の硬さと寸法変化
- 04製作と保全の費用材料費・加工費と再研磨・交換費
プレス金型材料は部品の役割に合わせて選ぶ
常温で板材を加工する金型では、刃先の摩耗を抑える耐摩耗性や、衝撃で欠けたり割れたりしにくい靭性が材料選定の重要な特性です。
金型部品には、板材を抜く・曲げる役割と、他の部品を保持・案内する役割があります。たとえば、抜き加工のパンチとダイには刃先の耐摩耗性が必要ですが、パンチを保持するプレートには保持部の強度や加工のしやすさも求められます。
| 部品 | 役割 | 選定時に比べる性質・条件 | 材料の例 |
|---|---|---|---|
| パンチ・ダイ | 板材を抜く、曲げるなどの加工を行う | 耐摩耗性、欠けにくさ、受ける荷重 | SKD11、ハイス、粉末ハイス、超硬合金 |
| ストリッパ | パンチから板材を離す。構造によって板材の押さえやパンチの案内も行う | 板材の押さえやパンチの案内を担うか、接触部の摩耗を抑えられるか | S50C、プリハードン鋼、SKS3、SKD11 |
| パンチプレート | パンチを保持する | 保持部の強度、加工のしやすさ、熱処理の要否 | SS400、S50C、プリハードン鋼、SKS3、SKD11 |
| ホルダ | 金型をプレス機に取り付け、金型を支える | 必要な剛性、部品を組み込む形状、加工のしやすさ | SS400、S50Cなど |
| ガイドポスト | 上型と下型の位置関係を保ちながら動きを案内する | ガイドブシュとの組み合わせ、表面の硬さ、摩耗 | 軸受鋼SUJ2など |
プリハードン鋼は、あらかじめ熱処理して硬さを調整した鋼材です。使用する硬さや用途が合えば、部品加工後の焼入れ・焼戻しを省けます。ガイドポストなどの標準部品を選ぶ場合は、部品メーカーの仕様で材質、硬さ、使用できる寸法や潤滑方法を確認してください。
SKD11・ハイス・超硬合金の違い
SKD11は、冷間プレス金型に使われる代表的なダイス鋼です。ハイスは高速度工具鋼の略称で、SKH51などがプレス金型にも使われます。粉末ハイスは、ハイス(高速度工具鋼)を粉末冶金法で製造し、組織を微細で均一にした材料です。
超硬合金は鋼材ではなく、炭化タングステンなどの硬い粒子を、コバルトなどの金属で結合した焼結材料です。金型の刃先に使う超硬合金は耐摩耗性に優れますが、衝撃による欠けも考慮して材種を選ぶ必要があります。
| 材料 | 主な特長 | 検討する場面 | 選定上の注意 |
|---|---|---|---|
| SKD11 | 耐摩耗性を備えた汎用的な冷間ダイス鋼 | パンチやダイの基本材料を検討する | 焼戻し条件によって硬さが変わるため、後の加工方法も確認する |
| ハイス | SKH51など、耐摩耗性と靭性を備える鋼種がある | 小径パンチなどで、SKD11使用時の摩耗や欠けを改善したい | ハイスの中でも鋼種により特性が異なる |
| 粉末ハイス | 微細で均一な組織を持ち、耐摩耗性や靭性の向上を図った材料 | 繰り返し加工する刃先の摩耗や欠けを抑えたい | 必要な特性と、機械加工・研磨の方法を鋼種ごとに確認する |
| 超硬合金 | 鋼材より高い硬さを持ち、耐摩耗性に優れる | パンチやダイの摩耗を抑え、再研磨までの加工数を増やしたい | 衝撃、刃先形状、保持方法に応じて欠けへの強さも確認する |
被加工材、板厚、刃先の形状、加工中に受ける荷重によって必要な特性が変わります。超硬合金でも硬さや欠けへの強さは材種によって異なるため、部品の形状と荷重に合う特性や推奨用途を比べてください。
SKD11と改良ダイス鋼を比較する場合
SKD11の摩耗や欠けを改善する材料には、靭性や高温焼戻し後の硬さを高めた改良ダイス鋼もあります。改良ダイス鋼は鋼種ごとに特性が異なります。必要な硬さを得る焼戻し条件と、その硬さでの靭性を比較します。高温焼戻し後の硬さやワイヤ放電加工時の寸法変化は、SKD11との比較項目です。
鋼材の焼入れ・焼戻しと部品の加工
SKD11やハイスは、焼入れ・焼戻しで必要な硬さや靭性を得て使用します。焼入れは、鋼を加熱してから急冷し、硬さを高める熱処理です。焼戻しは、焼入れした鋼を再加熱して硬さや靭性を調整する熱処理です。超硬合金は通常、この焼入れ・焼戻しで硬化させる材料には含めません。
鋼材の熱処理条件は、鋼種と部品の寸法・形状に合わせて検討します。材料メーカーの資料で焼入れ・焼戻しの温度と冷却方法を確認し、必要な硬さを得られるか、熱処理後の変形を仕上げ加工で修正できるかを確認してください。硬さの指定には、ロックウェル硬さのHRCなど、測定方法を表す記号も記載します。
同じ部品形状でも、選ぶ材料によって切削・研削のしやすさが変わります。使用する鋼種や超硬合金に適した加工方法と工具を選び、部品の製作費も比較します。
ワイヤ放電加工や表面処理を行う部品
ワイヤ放電加工は、ワイヤ電極と加工物との間で放電させ、材料を除去する加工方法です。熱処理した鋼材をワイヤ放電加工すると、内部に残った応力などによって寸法が変化することがあります。高温焼戻しが指定される鋼種もあるため、ワイヤ放電加工の有無を材料選定と熱処理条件の検討に含めます。
使用する鋼種について、材料メーカーが推奨するワイヤ放電加工後の仕上げ方法と、再焼戻しが必要になる条件を確認します。コーティングや窒化などの表面処理を行う部品では、処理温度と母材の焼戻し条件を確認し、必要な硬さを維持できる方法を検討してください。
摩耗・欠け・かじりから材料を見直す
摩耗は、金型の表面や刃先がすり減る状態です。欠けは刃先などの一部が破損した状態で、かじりは接触する面で凝着などが起こり、表面が荒れる状態を指します。既存金型の材料を変更するときは、損傷した部品と場所、損傷が出るまでの加工数を確認します。
金型の取付不良や抜きかすの持ち上がりでも、刃先が破損することがあります。材料の変更と、金型の構造・加工状態の改善を、確認した原因に応じて検討してください。たとえば、刃先の摩耗が進む場合は材種の耐摩耗性と熱処理後の硬さを調べ、局部的に欠ける場合は刃先形状、保持状態、金型の装着、抜きかすの持ち上がりを調べます。これは損傷から調べる内容を選ぶ検討例です。熱処理やワイヤ放電加工後の寸法変化は、加工中の摩耗とは区別して、製作時の熱処理・仕上げ方法を確認します。
材料費と再研磨・交換の費用を比較する
材料を比較するときは、材料費、機械加工費、熱処理費、研磨費を確認します。生産中の再研磨や部品交換についても、必要な作業と費用を見込みます。材料費が高い場合でも、再研磨や交換の頻度が減れば、使用期間中の費用を抑えられる場合があります。
入れ子構造は、摩耗や破損が生じる部分を別部品として組み込む構造です。材料選定では、入れ子にする範囲、交換部品を加工できるか、再研磨後に寸法を調整できるかも確認します。再研磨できる回数は、研磨で除去する量と、刃先に残せる寸法、研磨後の高さ調整方法によって変わります。
たとえば、パンチやダイの刃先を再研磨した場合は、削った分の長さをシムなどで調整することがあります。研磨できる量と調整方法を部品図面で確かめ、必要な生産数を加工するまでにかかる再研磨・交換の費用を見積もります。再研磨の予定回数に1回の研磨・調整費用を掛け、交換の予定回数に部品製作・交換費用を掛けて比較します。
まとめ
プレス金型の材料は、パンチやダイ、ストリッパ、保持・案内部品の役割に合わせて選びます。刃先にはSKD11、ハイス、粉末ハイス、超硬合金などが使われ、耐摩耗性と欠けへの強さ、加工や研磨の方法を比較します。
鋼材では熱処理後の硬さと寸法変化を確認し、既存金型の改善では材料以外の破損原因も調べてください。材料費に加えて再研磨・交換の作業と費用を確認すると、使用する期間を通じた比較ができます。
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よくある質問
少量生産でも超硬合金を使う必要がありますか?
生産数量、被加工材、刃先形状によって判断します。少量の軟鋼板加工なら、工具鋼など加工しやすい材料を検討できます。超硬合金を使う場合は、材料費と加工費に見合う耐摩耗性が必要かを確認してください。
粉末ハイスを選ぶときは何を比較しますか?
使用する鋼種の硬さ、耐摩耗性、靭性と、部品の加工方法を比べます。既存のパンチで改善したい摩耗や欠けの状態、生産予定数量に合わせて候補を選んでください。
硬さのHRCとHRAは数字をそのまま比較できますか?
HRCとHRAはロックウェル硬さの異なる尺度なので、数値の大小をそのまま比較できません。鋼材と超硬合金のカタログを比べるときは、硬さを示す記号と測定方法を確認してください。
金型全体を同じ材料にする必要がありますか?
部品の役割に合わせて異なる材料を使えます。たとえば、刃先に耐摩耗性の高い材料を使い、それを保持するプレートには加工しやすい鋼材を使う構成があります。交換や再研磨の方法も含めて検討します。
材料を変更するとき、以前の熱処理条件を使えますか?
新しい鋼種の技術資料で、焼入れ・焼戻し条件と得られる硬さを確認する必要があります。ワイヤ放電加工や表面処理を行う場合は、それらの加工方法も確認します。超硬合金への変更では、鋼材の焼入れ・焼戻し条件を引き継ぎません。