製造業でDXを推進するためには、システムを導入するだけでは十分な効果を得られません。紙やメール、Excelを使った従来の業務を見直し、システムに蓄積したデータを業務改善に活用する必要があります。
この記事で分かること
- 01デジタル化とDXの違い業務改善と事業変革の考え方
- 02最初に見直す業務定型作業を見分ける確認項目
- 03導入の進め方小さく試して効果を測る手順
- 04支援先の選び方運用とデータ管理の確認点
製造業DXは、改善する業務を決めてからシステムを選ぶ
製造業でDXを進めようとしても、対象となる業務が多く、どこから手を付けるべきか迷うことがあります。紙の帳票、Excel、メールを併用している場合は、転記や確認に時間がかかっている業務から洗い出します。
最初から全社の業務を大規模な生産管理システムへ移す必要はありません。まず、どの業務に時間がかかり、どのようなミスが起きているのかを確認します。その上で、システムに任せる作業と、担当者が判断する作業を分けます。
デジタル化とDXは目的が異なる
紙の日報をタブレット入力へ変えるだけなら、記録方法のデジタル化です。入力した実績を分析して段取り替えに時間がかかる製品を特定し、生産順序や作業手順を見直すことは、DXに向けた業務改善に当たります。さらに、蓄積したデータを使って製品・サービスや業務の仕組みを変え、継続的に新しい価値を生み出すことがDXです。
中小企業庁の「2025年版小規模企業白書」では、デジタル化の進展を、紙や口頭中心の業務から、デジタルツールの利用、業務効率化・データ分析、ビジネスモデルの変革までの4段階に整理しています。紙やメールを使った業務が多い場合は、まず一つの業務をデジタル化し、そこで得たデータを次の改善に活用します。
参考:中小企業庁「2025年版小規模企業白書 第5節 デジタル化・DX」
中小製造業でDXが進みにくい3つの理由
- 対象が広く、最初の一歩を決めにくい:生産管理、図面管理、見積り、日報、設備保全など、候補が多いため優先順位を付けにくくなります。
- 現場とシステムの両方に詳しい人が少ない:現場の作業手順を理解しながら、必要な機能や管理項目まで決められる人材は限られます。
- 現在の方法でも業務を続けられる:担当者が経験で対応している間は、転記や確認にかかる時間、引き継ぎの負担が表面化しにくいためです。
全社一斉の計画から始めると、対象業務と関係者が増え、優先順位や必要な機能を決めにくくなります。最初は対象業務を一つに絞り、作業時間や処理件数を測って、改善範囲を明確にします。
最初に見直すのは、手順と結果が決まっている定型業務
最初は、担当者が変わっても同じ手順で処理でき、同じ結果を得られる定型業務を対象にします。次の項目に複数当てはまる業務を洗い出してください。
- 担当者が変わっても、同じ手順で同じ結果を出せる作業である
- 同じ内容を複数の帳票やExcelへ書き写している
- 進捗を確認するために、メールや紙の書類を探している
- 件数が増えると、作業時間もほぼ同じ割合で増える
- 入力漏れや連絡漏れを、担当者の注意だけで防いでいる
金型・部品の手配業務を例に、見直す範囲を確認する
金型や部品を手配する際は、依頼メールの作成に加えて、図面の添付、回答の確認、未回答先への連絡、進捗表への転記も必要です。これらの情報を一つのシステムで管理すると、担当者以外も依頼内容と進捗を確認できます。
一元管理では、メール本文を保存するだけでは不十分です。一つの案件に、案件番号、図面番号と改訂記号、品名、数量、材質、希望納期、回答期限、依頼先、回答状況、見積書、変更履歴を結び付けます。これにより、どの図面をどの会社に送り、いつまでに回答を求めているのかを確認できます。
| 作業 | メール・Excel中心の運用 | 一元管理した場合 |
|---|---|---|
| 依頼内容の作成 | 過去メールを探し、宛先や添付図面を個別に確認する | 入力項目と添付する図面の種類を定型化し、入力漏れや添付漏れを確認できる |
| 回答状況の確認 | 受信箱を見直し、未回答先を担当者が洗い出す | 回答済み・未回答を一覧で確認できる |
| 進捗の共有 | メール内容を管理表へ転記し、問い合わせのたびに調べる | 依頼から回答までの履歴を同じ場所で共有できる |
| 条件変更への対応 | 新旧のメールを見比べ、どの条件が変わったかを確認する | 数量、納期、図面改訂などの変更前後と変更日を残す |
回答状況を「対応中」だけで管理すると、次に必要な対応が分かりません。「未送付」「回答待ち」「条件確認中」「回答済み」「辞退」などに分け、案件ごとの進捗を確認できるようにします。図面はファイル名だけで管理せず、図面番号と改訂記号を登録します。仕様変更前の条件と見積書も削除せず、変更履歴として残します。
効果は、想定した削減率ではなく、導入前後の実測値で比較します。導入前に、依頼1件の作成、回答確認、進捗表への転記にかかる時間を測り、月間件数を掛けて総作業時間を算出します。試験導入後も同じ方法で測定すれば、作業時間がどれだけ変わったかを確認できます。
見積依頼と回答管理を詳しく確認したい方は、製造業の見積業務DX|属人化を減らし回答を速める方法もご覧ください。
担当者の判断が必要な業務は、最初の自動化対象から外す
価格の妥当性、工法、不良原因、取引条件の判断には、製品・設備・過去案件に関する知識が必要です。例外も多いため、最初から自動化しようとすると、システムに必要な機能や処理手順を決めにくくなります。
まずは、情報の収集、転記、検索、定型連絡をシステム化します。価格や工法、例外対応など、経験が必要な判断は担当者が行います。
定型作業を減らし、判断が必要な業務に時間を充てる
DXによって定型作業を減らしても、担当者そのものが不要になるわけではありません。転記や集計に使っていた時間を、品質の確認、納期調整、技術継承、顧客対応など、担当者の判断が必要な業務に充てます。
人手不足と引き継ぎの負担を軽くする
依頼内容や進捗を担当者の受信箱や個人のExcelだけで管理していると、不在時に状況を確認できず、対応や引き継ぎが遅れることがあります。図面、回答、変更履歴を共通の場所で確認できるようにすれば、別の担当者でも経緯を把握できます。
終業前に集中する集計・転記を減らす
日中は現場対応を行い、終業前に日報の集計や管理表の更新をしている場合、転記作業が終業後に残りやすくなります。現場で入力したデータを日報や管理表に再利用できるようにすれば、同じ内容を何度も入力する作業を減らせます。
部門ごとに、最初の改善対象は異なる
| 部門 | 起こりやすい負担 | 最初に確認すること |
|---|---|---|
| 調達・購買 | 依頼と回答がメールに分散し、進捗を担当者しか把握できない | 案件番号、回答期限、候補先、回答状況、条件変更を一つの案件で追えるか |
| 設計 | 図面の版違いや、過去データを探す時間が発生する | 図面番号、改訂記号、承認日、変更理由を最新版の図面と結び付けて管理できるか |
| 製造 | 紙の日報を集計表へ入力し直している | 製造指示番号、設備、開始・終了時刻、良品数、不良数、停止理由を再入力なしで集計できるか |
| 品質・保全 | 不良記録、修理履歴、金型や設備の情報が別々に管理されている | 金型・設備の管理番号、発生日、現象、原因、交換部品、処置内容、確認結果を履歴として残せるか |
| 管理・事務 | 受注内容や納期変更を複数の表へ転記している | 受注番号、品番、数量、納期、進捗の入力元を一つに決められるか |
金型の所在、保全履歴、修理記録をまとめる場合は、金型管理DX|台帳・所在・保全履歴を一元化する進め方で管理項目を整理しています。
製造業DXは、1業務・1部署で試してから対象を広げる
対象を全社へ広げる前に、まず1業務・1部署で試します。実際に使う担当者と一緒に、次の4段階で進めます。
試験導入の対象には、入力項目と完了条件が決まっており、例外時の処理方法を明確にできる業務を選びます。すべての例外をシステムで処理しようとせず、担当者が確認する条件や、従来の手順へ戻す場合の判断基準も決めておきます。
IPAの製造分野DX推進ガイドでも、中小規模製造業が現状を把握し、課題を明確にした上で、具体的な施策を決める流れが示されています。金型・部品の手配、日報、図面管理なども、同じ流れで業務ごとに見直せます。
試験導入から対象を広げるまでの4段階
- STEP 1現状を測る作業時間、月間件数、転記回数、確認待ちの件数・時間を記録する
- STEP 2対象を絞る改善する業務と、効果を測る指標を一つずつ決める
- STEP 3試して比べる1部署で運用し、導入前と同じ条件で効果を測る
- STEP 4運用を見直す入力負担と例外処理を修正し、効果を確認して対象を広げる
効果を測る指標は、導入前に決める
「便利になった」という感想だけでは、次の投資を判断できません。対象業務に合わせて、次のような数字を一つか二つ選びます。
- 1件の処理にかかる時間と、月間の総作業時間
- 回答待ちの件数と、催促した回数
- 転記ミス、図面の版違い、連絡漏れの発生件数
- 必要な情報や過去案件を探すまでの時間
- 集計や帳票作成に使った時間
比較するときは、1件の数え方、対象部署、測定期間、繁忙期か通常期かをそろえます。見積依頼一式を1件と数えるのか、候補企業ごとの送付を1件と数えるのかが違うだけでも、導入前後の数字は比較できなくなります。
よくある失敗と回避方法
| 進め方 | 起こりやすい問題 | 回避方法 |
|---|---|---|
| 全社一斉に始める | 関係者が増え、調整だけで時間がかかる | 1業務・1部署で試し、効果を確認してから広げる |
| 入力項目を増やしすぎる | 繁忙時に未入力が増え、データを判断に使えなくなる | 判断に使う項目だけに絞り、不要な入力を減らす |
| 現場担当者を検討に参加させない | 実際の手順と合わず、使われなくなる | 日常的に使う担当者を試験段階から参加させる |
| 導入前の実績を測定しない | 導入効果を比較できない | 現状の時間、件数、ミスを先に記録する |
製造業DXの支援会社を選ぶときに確認すること
支援会社を比較するときは、機能一覧だけでなく、導入後の運用まで説明できるかを確認します。
- 対象業務への理解:自社と近い工程や課題を扱った経験があるか
- 提案の具体性:誰が、いつ、何を入力し、どの判断に使うのかを説明できるか
- 既存業務からの移行:現在の帳票やExcel、既存システムにあるデータを移行する手順があるか
- 試験導入の範囲:小さく試せる対象と、費用・期間・評価方法が明確か
- 導入後の見直し:運用開始後の修正、教育、問い合わせ対応が契約に含まれるか
- データの扱い:保管場所、閲覧権限、バックアップに加え、解約時に案件、図面情報、回答履歴をCSVなどで受け取れるか
自社でも推進担当者を決め、現場の課題と導入目的を支援会社へ伝えます。外部支援が終わった後も、社内で手順や設定を見直せるように、担当者、記録方法、問い合わせ先を決めておきます。
金型・部品の手配や見積り依頼を見直す場合
金型・部品の手配方法や見積り依頼を見直したい場合は、相型MATCHINGで案件を登録し、条件に合う企業へ一括または個別に見積りを依頼できます。
生産管理システムや工場設備の導入を相談する場合は、候補となる支援会社に、対象分野の導入実績、既存システムとの連携方法、保守範囲を確認してください。
まとめ
製造業でDXを進める際は、システムの導入と業務の見直しを並行して進めます。まず、紙やメール、Excelを使った業務から、転記、確認、検索、定型連絡などの作業を洗い出します。その上で、システムに蓄積したデータを、作業手順や判断基準の改善に活用します。
最初は対象を1業務・1部署に絞り、導入前後の作業時間、処理件数、ミスの件数を比較します。入力負担や例外処理を見直した後、効果を確認できた業務から対象部署を広げます。
金型・部品の手配や見積りをご相談いただけます
金型・部品の手配方法や見積りの進め方を見直したい場合は、図面、数量、希望納期など、現在分かっている条件をお知らせください。
よくある質問
製造業DXは何から始めればよいですか?
まず、転記、確認、検索、定型連絡など、手順と結果が決まっている作業を一つ選びます。導入前に1件当たりの作業時間と月間件数を測り、作業時間が長いものや処理件数が多いものから試してください。
社内にシステムに詳しい人がいなくても進められますか?
進められます。社内にシステムの専門家がいなくても、現在の業務手順、困っている点、残したい判断を説明できれば検討を始められます。実際の担当者と推進担当者が、入力項目、例外時の処理、効果を測る指標を整理し、不足する技術知識は支援会社に確認します。
現場の負担を増やさないために何を確認すべきですか?
新しく入力する項目ごとに、その情報を何の判断に使うか、代わりにどの転記や帳票を廃止できるかを確認します。試験導入では、入力時間と未入力件数も測り、判断に使わない項目を減らしてください。
Excelを使っている業務でもDXを始められますか?
始められます。まず、入力項目と更新手順をそろえ、誰がいつ更新するかを決めます。複数人の同時更新、ファイルの版違い、二重入力が増えている場合は、共有方法や専用システムへの移行を検討してください。