ABSは耐衝撃性や外観に特長がある樹脂です。射出成形に必要な予備乾燥、シリンダー・金型温度、成形収縮率の条件例と、銀条・焼け・変色が出たときの調べ方を解説します。
この記事で分かること
- 01成形条件の設定温度・乾燥時間・収縮率の適用条件
- 02予備乾燥乾燥条件と乾燥機の状態を確認する
- 03成形温度樹脂温度・金型温度と滞留時間を確認する
- 04外観不良筋や変色の出方から原因を調べる
ABS樹脂とは
ABSは、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンを原料として作られる熱可塑性樹脂です。耐衝撃性や表面光沢を生かした外観部品などに使われ、塗装やめっきに適したグレードもあります。
汎用、耐熱、難燃、透明、繊維強化など、製品に必要な性能に応じたグレードが用意されています。乾燥条件や成形温度の推奨範囲はグレードによって異なります。材料の袋に表示されたメーカー名と品番に対応する技術資料で確認します。
技術資料にある条件をもとに、成形機、製品の形状・大きさ、金型構造に合わせて初期条件を設定します。トライで成形品の外観や寸法、製品に必要な物性を確認し、その結果に応じて条件を調整します。
ABSの成形条件と収縮率の確認
材料メーカーの成形条件表に示された、汎用・透明・耐熱ABSの例を下表に示します。各欄は同じ資料のグレード別条件で、すべてのABSに共通する推奨値ではありません。使用する品番の推奨条件を確認し、成形機、製品形状、金型に合わせて初期設定を決めます。
| グレードの例 | 予備乾燥温度・時間 | シリンダー設定温度 | 金型温度 |
|---|---|---|---|
| 汎用 | 80〜90℃・3〜5時間 | 220〜240℃ | 40〜80℃ |
| 透明 | 80〜90℃・3〜5時間 | 210〜230℃ | 40〜70℃ |
| 耐熱 | 90〜100℃・3〜5時間 | 240〜260℃ | 40〜80℃ |
成形収縮率は、この資料のABS製品群では通常0.4〜0.6%の例が示されています。形状や成形条件によって変わるため、金型寸法の保証値ではありません。
線寸法の収縮率を比べるときは、樹脂の流れに沿う方向と直角方向、試験片の形状、成形後の測定条件を記録します。資料の試験では、成形品を23℃・50%RHで24時間置いた後に寸法を測定しています。試作品の寸法も測定し、必要な公差に対して金型寸法を検討します。
シリンダー設定温度は、成形機のヒーターに設定する温度です。溶融した樹脂の実際の温度と区別して扱います。耐熱、難燃、透明、繊維強化などのグレードでは推奨範囲が異なるため、使用する品番の条件に合わせてください。
ABSの予備乾燥
ABSに残った水分は、成形品の表面に銀条と呼ばれる細長い筋が出る原因になります。箱型熱風乾燥機を使う場合の資料例は、80℃で3〜6時間、または90℃で2〜3時間です。使用品番と乾燥機の方式に合う条件を選びます。
乾燥不足を調べるときは、設定値に加えて、材料が実際に乾燥される時間や乾燥機の状態も確認します。乾燥温度と、材料が乾燥機内にとどまる時間を記録します。設備の点検では、温風の流れやフィルターの状態を確認してください。
| 点検箇所 | 確認内容 | 確認の目的 |
|---|---|---|
| 乾燥温度・時間 | 品番ごとの推奨値、乾燥機の温度、材料が乾燥機内にとどまる時間 | 材料品番に指定された温度と時間を確保する |
| 温風の流れ | 温風の量、フィルターの目詰まり、温度調節器の状態 | 設備の不調を調べる |
| 保管・供給 | 開封後と乾燥後の保管状態、成形機へ供給するまでの吸湿防止 | 保管・供給中の吸湿を防ぐ |
乾燥後の水分率を管理する場合は、使用品番の資料にある基準と測定方法を記録し、実際の測定結果を基準と比べます。乾燥温度や時間の上限も確認し、乾燥不足の理由に合わせて設定や乾燥機の状態を見直します。
ABSの成形温度と滞留時間
樹脂温度が低く流れにくい状態では、充填不足やウェルドラインが目立つことがあります。温度が高過ぎる場合には、樹脂の分解による焼けや変色が起こることがあります。資料に示された温度が、シリンダーの設定温度と実際の樹脂温度のどちらを指すか確認します。
滞留時間は、樹脂がシリンダーなどの内部にとどまる時間です。シリンダー内やホットランナー内での長い滞留も、熱分解による銀条の原因になります。成形を中断した前後は、樹脂が長く加熱されていないか、停止時間とシリンダーの温度記録を確認します。
金型温度は表面光沢やウェルドラインの目立ち方、残留応力に関わります。金型温度を高くすると外観が改善する場合がありますが、成形サイクルは長くなる傾向があるため、外観と冷却時間を確認して調整します。
ABSの外観不良の原因と対策
外観不良は、現れ方と発生位置を記録してから、関係する材料・成形条件・金型の状態を調べます。次の表は、不良ごとの現象と確認内容の例です。
| 不良 | 現象 | 確認する内容 |
|---|---|---|
| 銀条 | 表面に細長い筋が現れる | 乾燥不足、空気の巻き込み、熱分解。乾燥記録に加え、背圧・スクリュー回転数・樹脂温度・滞留を確認する |
| 焼け・変色 | 成形中に樹脂の色が変わる、焼けた跡が出る | 樹脂温度が高過ぎないか、シリンダーやホットランナーに長く滞留していないか |
| 光沢低下 | 必要な表面の光沢が得られない | 金型温度と成形品の表面状態。温度を調整した後の光沢と冷却時間を確認する |
| ショート | 樹脂が金型内に十分に充填されず、成形品の一部が欠けた形になる | 樹脂の流動性、射出圧力・速度、ゲートや肉厚、ガスの抜け方 |
| ウェルドライン | 樹脂の流れが合流した箇所に細い線状の跡が出る | 合流位置、金型温度、ゲート位置、ガス抜き。外観と必要な強度を確認する |
| ヒケ | 冷却して固まる過程で収縮し、表面にくぼみができる | 肉厚、保圧の圧力・時間、ゲート、冷却状態。形状や金型構造の変更が必要な場合もある |
銀条が出た場合は、乾燥の記録と乾燥機の状態を確認し、空気の巻き込みや熱分解も調べます。例えば、指定条件で乾燥した後も銀条が残る場合は、乾燥記録と材料の保管状態を確かめ、背圧やスクリュー回転数、樹脂温度、停止前後の滞留を調べます。乾燥不足、空気の巻き込み、熱分解を区別して確認するための検討例です。
調整では、変更した条件と、その後の不良の出方を記録します。一度に変更する項目を絞り、どの変更で成形品がどう変わったかを確認してください。
まとめ
ABSの射出成形では、使用する品番の技術資料から乾燥条件と温度の推奨範囲を確認し、製品形状、金型、成形機に合わせて初期条件を設定します。トライで外観・寸法・必要な物性を確認し、結果に応じて調整します。
銀条や焼け・変色が出たときは、不良の現れ方と発生位置を記録し、乾燥不足、空気の巻き込み、過熱や長い滞留などを調べます。変更した条件と結果を残し、改善した点と残った不良を確認してください。
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よくある質問
ABSの射出成形では予備乾燥が必要ですか。
予備乾燥を行います。箱型熱風乾燥機を使う場合の資料例は80℃で3〜6時間、または90℃で2〜3時間です。使用品番と乾燥機の方式に合う温度・時間に設定します。
ABSの成形収縮率は何%ですか。
材料メーカーの資料にあるABS製品群では、通常0.4〜0.6%の例が示されています。形状・成形条件・測定方向によって変わるため、使用品番の値と試作品の寸法から金型寸法を検討します。
ABSの成形温度は何℃が目安ですか。
同じ成形条件表の汎用ABS例では、シリンダー設定220〜240℃、金型40〜80℃です。透明や耐熱などのグレードでは範囲が異なります。シリンダー設定値と実際の樹脂温度を区別し、使用品番の推奨範囲に合わせます。
ABS成形で銀条が出たときは何を確認しますか。
乾燥温度・時間、材料の保管状態、乾燥機の温風やフィルターを確認します。空気の巻き込みや熱分解も原因になるため、背圧、スクリュー回転数、樹脂温度、滞留の状態も調べます。